縁日と聞くとお祭りのことを想像する方も多いと思います。現在ではほぼお祭りと同義になっていることも多いのですが、お祭りと縁日は全く違うものです。
現在の意味の縁日は昭和になってからであり、江戸時代まではお祭りとは異なり、特定の神社・寺院に参拝する日となっていました。
縁日とは何か詳しく説明します。
縁日とは
- 読み方:えんにち
縁日は元々、神仏に縁(ゆかり)のある日のことでした。
神仏とこの世との有縁(うえん)の日・結縁の日ということです。
もう少しわかりやすく説明すると神仏が、降誕・降臨・示現・誓願など現世に表れたりする日や神仏に願いが届く日で、縁が出来る日のことです。
だから縁日に該当する寺社に参拝に訪れて参拝すると普段よりもご利益・ご加護があると信じられていました。
縁日の成り立ち・起源
縁日は平安時代(794年から1185年頃)にはあったとされています。
今昔物語(1120年以降とされているのが通説)にも縁日に関する記述があり、12世紀には縁日というものがあったと考えられています。
縁日になると寺社に多くの人が訪れるようになり、自然と露店が増えて江戸末期や明治期には今で言う「お祭り」の状態になってきたことから、縁日=お祭りというようになっていきます。
明治時代には縁日欄が新聞に掲載され、いつ・どこで縁日が行われているかわかるようになりますし、暦にも縁日は記載されていました。
ただ近代化が進み、戦争が多くなり、徐々に縁日も廃れていきます。
また寺社へ訪れる人も減り、今では正式な意味での「縁日」が開催されて賑わっているのは東京や大阪、京都などの一部のみとなってしまいました。
それでも地方の一部の寺社では縁日として特別拝観出来る日にちが設定されていることもあります。
なお縁日は会日(えにち=神仏に会う日)が訛り「縁日」になったとも言われています。
年初めての縁日は特に重要視された
縁日において、特に重要視されたのが年初めての縁日です。例えば大黒の日・大黒天と言われる縁日は甲子の日に行われますが、年の初めての大黒の日は「初大黒・初甲子祭」と言われたり、毎月18日の観音の日・観音・観世音菩薩の年初めての日は「初観音」と言われました。
初○○は、よりご利益・ご加護があると考えられており、多くの人が訪れていました。
縁日と祭りの違い
縁日と似て異なるものが祭りです。
縁日は説明してきた通り、神仏と縁のある日ですが、祭りは神仏や先祖を祀ることだったり、何かに感謝することです。
- 縁日=神仏と縁のある日であり、縁起の良い日
- 祭り=神仏や先祖を祀ったり、感謝する日、縁起が良いとは限らない(鎮めの祭等)
または下記のようにも言えます。
- 縁日=神仏が近くに来てくれる日(神仏から近づいてくる)
- 祭り=神仏に近づいていく日(人間から近づいていく)
有名な縁日・主な縁日
縁日は非常に多くあります。有名な縁日・主だった縁日を紹介します。
神仏と縁のある日ということで、神仏によって縁日は異なります。
元三大師
縁日:1月3日
比叡山延暦寺の中興の祖として知られる良源(慈恵大師)のことです。
旧暦1月3日に亡くなったことで1月3日が「元三大師」の縁日とされています。主に天台宗の寺院で「元三大師」の縁日は行われています。
厄除け大師として独特の信仰を集めています。また「おみくじ」の創始者とも言われています。
妙見・妙見菩薩
縁日:毎月1日・15日
縁日の妙見は妙見菩薩を信仰する日蓮宗徒の「妙見講」に由来しているそうです。
妙見菩薩は、北斗七星を神格化した菩薩で、国土を守護し災害を減除し、貧窮を救い、いっさいの諸願を満足させると言われています。
なお神仏習合が禁止された際、多くの神社は妙見菩薩から天之御中主神を祀るようになりました。
1月1日の初詣を「初妙見」として重んじられています。
宝生如来
縁日:毎月3日
財宝を生み出し人々に福徳を授ける仏とされており、病気治癒・無病息災・減罪の功徳があるとされています。
宝生如来の縁日を行っている寺院はかなり少ないとされています。
阿閦如来
縁日:毎月4日
「あしゅくにょらい」と読みます。
語源は「揺るぎないもの」を意味し、物事に動じず迷いに打ち勝つ強い心を授けるといわれています。
阿閦如来の縁日を行っている寺院はかなり少ないとされています。
弥勒・弥勒菩薩
縁日:毎月5日
とても有名な弥勒菩薩ですが、実際に縁日を行っている寺院はそれほど多くないようです。
また基本は毎月5日ですが、寺院によっては毎月第3土曜日というように曜日で行っている場合もあります。
水天・水天宮
縁日:毎月5日(5日・15日・25日に行っているところもあり)
福岡県久留米市の水天宮の総本宮、東京水天宮では毎月5日が縁日となっています。
1月5日は初水天宮(祭)となっています。
薬師・薬師如来
縁日:毎月8日
薬師如来の縁日は毎月8日に行われるのが基本です。
縁日は薬師講に由来すると言われています。薬師講は薬師如来の徳を講讃する法会で、薬師経を百座にわけて講説・讚歎(仏の徳を称賛すること)するそうです。
1月8日は「初薬師」とされています。
なお一部の寺社では8日ではなく別の日、例えば「法相宗大本山 薬師寺」では毎月12日に行っていることもあります。
金毘羅
縁日:毎月10日
縁日の中でも特に信仰深い人が多いとされるのが金毘羅の縁日です。
1月10日は「初金比羅・初十日」と言い、特に信者の信仰が厚いと言われています。
12月10日は「終金毘羅(しまいこんぴら)」と呼ばれています。
虚空蔵・虚空蔵菩薩
縁日:毎月13日
読み方は「こくうぞう」ですが「こくぞう」と言う場合もあります。
1月13日の縁日は「初虚空蔵」とされていますが、4月13日の京都嵯峨の法輪寺の虚空蔵に参拝する「十三参り」が一番有名です。13歳になる少年少女が盛装して参拝し十三品のお菓子を買って虚空蔵に供えた後に、家に持ち帰り、家中の者に食べさせるという風習が残っています。
日蓮・日蓮聖人
縁日:毎月13日
日蓮宗(法華宗)の寺院では毎月13日に日蓮聖人の縁日を開催しているところがあります。
「御祖師様」(おしそさま・おそっさま)の縁日としてある場合もほとんどが日蓮聖人の縁日となっています。
寺院によっては毎月12日にしている場合もあります。
普賢菩薩
縁日:毎月14日もしくは24日
普賢菩薩の縁日は、毎月14日ですが、24日に行っている寺院も多くあります。むしろ寺院で普賢菩薩の縁日を行っているところは24日の方が多いかもしれません。
京都宇治市の宝善院、東京江東区の深川不動堂は毎月24日を普賢菩薩の縁日としています。
阿弥陀如来
縁日:毎月15日
浄土宗系のお寺で阿弥陀如来の縁日は行われていることが多くなっています。
阿弥陀如来の像がある寺院では拝観日としていることもあります。
閻魔
縁日:毎月16日
特に1月16日・7月16日(主に旧暦ですが新暦になっても)は、「閻魔王の賽日(斎日)」と称されて地獄の獄卒も仕事を休む日と言われていました。昭和初期までは「藪入り」と重なり、多くの人が閻魔の縁日を楽しんだと言われています。
また1月16日は「初閻魔」とされより多くの人が閻魔詣に訪れたそうです。
歓喜天(聖天)
縁日:毎月16日
治病・除難・夫婦和合・子宝などの功徳があるとされ、縁日は「聖天」として賑わったとされています。
特に1月16日の「初聖天」は多くの人で賑わったそうです。
なお歓喜天はヒンドゥー教の象の姿をしているガネーシャが起源とされています。
千手観音菩薩
縁日:毎月17日
千手観音の手は1000あるとされていますが、仏像や絵だと40本しか無いことも多いのですが、これは1本の手で25人を助けることが出来るからとか。
なお千手観音の縁日はお寺によっては毎月18日に行っているところもあります。
観世音菩薩・観音菩薩
縁日:毎月18日
一部のお寺では毎月17日行っていることもあります。
観音菩薩の像がある寺院では拝観日となっていることもあります。
1月18日の「初観音」はより多くの人が訪れたそうです。なお明治以降になると1月1日を「初観音」と呼ぶことが増えてきたそうです。
七面天女
縁日:毎月18日もしくは19日、もしくは両日
七面天女もしくは、七面大明神と言われています。縁日を行っているお寺では神仏習合のことが多く、その場合は七面大明神としているようです。
縁日は毎月18日のところ、毎月19日のところ、両日に行うところがあります。
馬頭観音菩薩
縁日:毎月19日
観音様の中では珍しい忿怒(激しく怒っている様子)の姿をとるのが馬頭観音・馬頭観世音です。「馬頭観音」「馬頭観世音」と刻まれた石碑は全国にあります。
明治以降の近代化で馬が移動や荷運びの手段と用いられたことで亡くなる馬も増えたため祀るためです。
十一面観音菩薩
縁日:毎月20日
あまり聞き慣れない観音様ですが、観音菩薩の変化身の1つとされています。
「十一面観音」の縁日では茨城県行方市の「十一面円座観世音縁日」が有名ですが8月初旬に行われており、しかも男子禁制・女性のみの縁日となっています。
准提観音菩薩
縁日:毎月21日
あまり聞かれない「准胝観音」ですが「じゅんでい かんのん」「じゅんてい かんのん」と読みます。
地域やお寺によっては異なる日(15日・17日・18日)が縁日になっていることがあります。
弘法大師 ・大師
縁日:毎月21日
弘法大師の忌日が21日であり、真言宗の縁日にもなっています。
年の最初の縁日である1月21日は「初大師」と言い、年最後の縁日である12月21日は「終弘法」と言います。また3月21日の縁日は「御影供(みえいく)」と言います。
川崎大師も毎月21日午前6時に縁日を行っています。
如意輪観音菩薩
縁日:毎月22日
にょいりん かんのん と読みます。救世観音とも呼ばれます。
地域によっては別の日が縁日になっていることもあります。
不空羂索観音菩薩
縁日:毎月23日
「ふくうけんさくかんのん・ふくうけんじゃくかんのん」と読みます。
不空羂索観音菩薩の縁日とはなっていますが、現在でも行っている寺院は数少ない様です。
勢至菩薩
縁日:毎月23日 もしくは午の日
せいしぼさつ と読みます。 勢至菩薩は、午年(うまどし)の守り本尊とされていることから午の日を縁日としている寺院もあります。
今でも勢至菩薩の縁日を行っている寺院は全国にあります。
八幡神
縁日:毎月23日
八幡神の縁日とはなっているものの、現在毎月23日に縁日を行っている神社は無いものと思われます。
むしろ神仏習合時代の八幡大菩薩の時ものと思われます。
一部の八幡神社で23日が月例祭になっていることはありますが、月例祭と縁日は別物です。
地蔵菩薩
縁日:毎月24日
1月24日の年の最初の縁日は「初地蔵」と呼ばれ、今でも参拝に訪れる人がいます。
旧暦時代の7月24日は「地蔵盆」という縁日が行われていました。今でも続いているところは新暦の8月22日から8月24日に行っています。
愛宕権現
縁日:毎月24日
1月24日の年始めの縁日は「初愛宕」と言われ、愛宕神社に参拝する人も多くいます。
旧暦6月24日の縁日は愛宕の千日詣とされ、この日に参詣すると1000回、参詣したことにあたるとされています。
文殊菩薩
縁日:毎月25日
「もんじゅぼさつ」と読みます。
正式名称は文殊師利菩薩(もんじゅしりぼさつ)と言い、「三人よれば文殊の知恵」という格言があるように、知恵の仏様として学業向上や合格祈願に利益のある菩薩です。
天神
縁日:毎月25日
「てんじん」もしくは「てんしん」と読みます。
菅原道真公のことで、25日は誕生日であり命日で、このことに因んで天神の縁日となっています。
年最初の1月25日は「初天神」、年最後の12月25日は「終天神」と呼ばれます。
2月25日は「天神祭」が全国の天満宮等、菅原道真公を祀る神社で行われます。
法然上人
縁日:毎月25日
法然で「ほうねん」と読みます。
浄土宗の開祖とされており、浄土宗のお寺を中心に縁日が行われています。
愛染明王
縁日:毎月26日
「あいぜんみょうおう」と読みます。
愛染明王は不動明王と同じく、大日如来が私たちの願いに応じて変身した姿とされます。
不動明王・不動
縁日:毎月28日
「ふどうみょうおう」と読みます。
年最初の1月28日は「初不動」と言い、今でも不動尊等のお寺に参詣に訪れる人が多くいます。
嵯峨天皇が国の平安を弘法大師にお願いした処、不動明王をご本尊とし、宮中で初めて護摩をご修行したのが28日だった事ということで28日が縁日となったと言われています。
一部の寺院では1日・15日・28日を縁日にしています。
大日如来
縁日:毎月28日
「だいにちにょらい」と読みます。
一部の寺院では毎月8日としているところもあります。
仏様の中では最高位に位置するとも言われる大日如来ですが、縁日を積極的に行っている寺院は多くないようです。
釈迦如来・釈迦
縁日:毎月30日
「しゃかにょらい」と読みます。
仏教の開祖ですが、あまり縁日は開催されていないようです。または異なる日(例えば毎月8日)に縁日を行っている寺院もあります。
鬼子母神
縁日:毎月8日・18日・28日
「きしぼじん」もしくは「きしもじん」と読みます。
東京・雑司が谷の鬼子母神堂では毎月8日・18日・28日に縁日が行われていることで有名で、現在でも有名な縁日です。
稲荷神
縁日:午の日
稲荷神社等で誰もが知っている神様ですが、午の日が縁日となっています。
毎年最初の縁日を「初○○」というのに対して稲荷神の縁日のみ2月最初の午の日を「初午」としていることが多くなっています。
初午は、雑節にも数えられることがあり、全国の稲荷神社のお祭りの日にもなっています。
摩利支天
縁日:亥の日
「まりしてん」と読みます。
年最初の縁日を「初亥」と言います。
特に東京・上野の「摩利支天 徳大寺」は摩利支天の縁日が行われている寺院として人気であり、有名です。
毘沙門天
縁日:1月・5月・9月の最初の寅の日
「びしゃもんてん」と読みます。
他の縁日と異なり、毎月ではなく1月5月9月の最初の寅の日のみが縁日となっています。
年最初の縁日は「初寅」と呼ばれて重んじられています。
大黒天
縁日:甲子の日
「だいこくてん」と読みます。
甲子の日なので年に6回(極稀に7回)あります。11月と1月の甲子の日を特に重んじています。
年の最初の甲子の日は「初大黒・初甲子」と言い、特に縁起の良い日としています。
弁才天(弁財天)
縁日:己巳の日
「べんざいてん」と読みます。
巳待(みまち)とも言うことがあります。
弁財天の縁日として、己巳の日が選日とされることもあるくらい、昔から縁起の良い日とされてきました。
なお巳の日すべてを弁財天の縁日としている場合もあります。
帝釈天・青面金剛
縁日:庚申の日
帝釈天は「たいしゃくてん」、青面金剛は「しょうめんこんごう」と読みます。
歳の最初の庚申の日は帝釈天の縁日として「初庚申(はつこうしん)」として祭りを開催するところもまります。有名なところでは柴又帝釈天です。
青面金剛には庚申講という日本独自の民間信仰があり、庚申の日が青面金剛の縁日として現在でも信仰者が参詣しています。
縁日に関すること
縁日に関することを記していきます。
縁日と屋台・露店
縁日は神仏と縁(ゆかり)のある日という意味でしたが、江戸時代後期より縁日には屋台・露店が並び、明治後期には「縁日=屋台・露店」となり、昭和に入り「神仏に縁のある日」という意味合いが廃れて「縁日=お祭りと同じで屋台・露店が並ぶ日」というように遷移してきました。
おそらく縁日=神仏に縁のある日、という認識を持っている世代は1960年代以前の生まれの人で無ければ、ほぼ無くなっているのではないでしょうか。
もしくは1960年代以降、つまり1970年以降の生まれで「縁日=神仏に縁のある日」は寺社関係のお子さんか、露店・屋台関係の仕事をされている方、親御さん・親戚の方が宗教に対して敬虔な(信心深く慎ましやかな)方だったと思います。
屋台と言えば、焼きそば・お好み焼き・たいやき・フライドポテト・金魚すくい・綿あめ・クレープ・かき氷・射的・カタヌキ 等がありますが、時代によって新たなものが登場し始めています。
2018年以降、特に2019年以降のお祭りであれば、タピオカの屋台が急激に増えました。
お面にしても、その時代に流行っているアニメや特撮ヒーローが主流です。
逆に昭和中期までは縁日で見られた「見世物小屋」は人権問題が高くなるにつれ、ほとんど見られなくなりました。
縁日の本来の意味は失われていますが、屋台・露店が並ぶお祭りや縁日に行くと、今も昔も子どもたちは屋台・露店にワクワクして楽しんでいる様子が伺えます。
三十日秘仏と縁日
日本の縁日の基礎となったと言われるものに「三十日秘仏(さんじゅうにちひぶつ)」と呼ばれるものがあります。
10世紀の中国で定められたもので、30日(旧暦の大月の1ヶ月)に30の仏を配置しており、この三十日秘仏のうちいくつかは日本でも定着して、そのまま仏様の縁日となっているものがあります。
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